先日の国立能楽堂での《松風》関連企画に続き、今回は井内先生による講義を聴講しました。
この《松風》というオペラは2011年5月にブリュッセル王立モネ劇場の委嘱により作曲されたオペラでポーランド、ルクセンブルク、ベルギー、ドイツのベルリン、ニューヨーク、香港などで既に上演されており、オペラで世界に通じる日本人作曲家は細川さんだと言っても過言ではないとのお話。
キャスト4名、合唱各パート2名ずつの計8名(これは地謡の人数に合わせたのこと)オケは22人と、とても小規模ながら、演奏時間は75分という程よい長さになっていて上演しやすい。
ストーリーは1/11のブログを参照いただきたいのですが、

今回わかったことは5景あって、2から4は僧の夢の中の世界として描かれているということ。松風と村雨が現れて、僧と接触し、彼女たちの事情を聞いて、僧は彼女たちを弔うという、ここまで。「自分たちは成仏できないまま腐って行く」という強烈な表現とともに、悲しくも美しい幽玄の世界を細川さんの音楽は言葉と相舞って惹きこまれた。現代音楽は無調性で聞き苦しいものが多い中で、調性がなくてもどこか調和が取れていて聞き苦しくないのが不思議なくらいだった。
細川さんご自身がおっしゃっていたことを聞きながら思い出した。
光と陰、陰と陽、男と女、互いが喧嘩することなく調和する世界、宇宙の広さを想定した広がりの調和!彼の音楽にはその理想が隠されているのではないだろうか。
井内先生は、《松風》の成功の裏にはサシャさんの演出の影響が大きいと話す。音の静けさを舞台表現、ダンサーの動きで埋めることで、観客を飽きさせずに惹きつけて行くからだと。サシャの演出のサンプルとして、2005年のパーセル《ディドとエネアス》やパリ・オペラ座のバレエ《ロメオとジュリエット》をあげた。パーセルのそれではダンサーは水槽の中で光を浴びて人魚のごとく美しく泳ぎ、歌手さえも歌い終わると水槽に飛び込む。昨今、歌手は演技どころか、ダンスもできて、泳ぎもできて〜という人が採用される時代みたいですね。まあサシャさんの演出だから特にですが。《松風》ではドッペルゲンガーとして、ダンサーが起用されて、彼女たちの心理を視覚化するという演出だそうなので、ダンスを見るのが苦手な私としては興味が出てきたことが嬉しい。
講義の最後に、聴講されている方がお話くださった中にも面白い切り口があった。能は約260演目ある中で、女性2人が主人公のものは一桁しかないとのこと。細川さんはその数少ない女性2人が主人公の《松風》や《二人静》という演目を選んでいる。そこに、何か理由があるというお話。細川さんが松風と村雨が一人の女性の陰と陽を表しているとおっしゃったっこと、そして、井内先生が、ソプラノの松風とメゾソプラノの村雨のハーモニーや掛け合いがとても美しい対比になっていることをポイントとして挙げていらっしゃったことに通じると思い、合点がいった。
今回の《松風》は今まで、ビデオでもナマでも体験したことのないオペラだったので、講義の内容も、見せていただいたビデオも、とても興味深く有意義な2時間でした。
新国立劇場で《松風》を観るのがとても楽しみになりました。
今日講義をしてくださった井内先生、関連企画を催してくださった新国立劇場に感謝です!
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